
2015年1月
ホテルのロビーで
母親は考えている
アントーニオの事、ベルキャプテンSさんの事、そして金井先生の事
アントーニオはラテン語で「
大変貴重なもの」という意味なのだとか
ベルキャプテンの単なる思いつきだったのだろうか?
はたまた何か理由があったのだろうか
Sさんに会ったらきいてみよう
そういえば息子さんも今年無事就職されたと聞いた
とても嬉しそうだった
Sさんも辛く、苦しい時、アントーニオに祈ったりしたのだろうか
母親は会った事のない彼の息子に親近感を覚え、まるで身内を祝うような気持ちになった
そして母親の娘も今年新たな一歩を踏み出した
北海道の冬のように寒くて長い3年間ではあったが、それはきっといつの日か彼女の人生の「糧」となってくれると信じたい
今年、ホテルに展示されている金井先生の絵には、いくつか自筆のメッセージが添えられていた
「
継続こそが技を生み、道を拓く」
「
失敗を恐れるな」「
恐れるべきはそこから逃げ出すことである」
それはまさしく母親がこれらの絵を見るであろう事を想定し、母と娘のためにに送られたメッセージであり、
力強いエールであった
母親は心から感謝し、金井先生に依頼した
「先生の絵の中に、どうかアントーニオを描いてください、家族がその絵を見て
ホッとできるような、明日に希望を抱けるような、そんな絵をお願いいたします」
先生は母親の願いを快く引き受け、三ヶ月後、絵とともに詩がそえられて届けられた
命の時間
静かな富良野の森の中 にわかに響くシンフォニー
トントンカンカントントコトンそれはあかげらアントーニオが奏でる命の響き
富良野の森は生きている
喜びを響かせるところ
まさに優しい命の時間が流れるところ
母親はその絵の中に優しさと、慈しみを感じ
富良野の森に生きるアントーニオに想いを馳せた

私はオオアカゲラのアントーニオ!
住まいは富良野スキー場の森の中
ここには毎年多くのヒトが訪れる
ヒトは怖くて、今でも苦手だ
けれど私は5年前、訳あって
3人の人々にこの命を救われた
ヒトの手はとても大きくて暖かかった
命が救われた時、私は神に感謝し、
生かされたこの命がヒトの役に立つように
と祈った
私の祈りは通じただろうか?
知る由もないが、今年みんなの明るい笑顔を
エゾマツのてっぺんから、かいま見る事が出来た

私は、満足してエゾマツから飛び立った
私はこの話を子供に、そして孫へと語り継いでいくことだろう
ヒトとオオアカゲラとをつなぐ呪文。合言葉は「アントーニオ!」

2010年一羽の鳥と出会い、大切な人々と出会った
5年間という時の流れの中で、湧き上がる喜びや、ほっこり心が温まることもあれば
やり場のない苛立ちや、涙で枕を濡らす夜もあった
アカゲラの寿命はわからないけれど、アントーニオは今も我々の心に生き続けている
そしてこれからもアントーニオは金井先生の絵の中で永遠に私たちを見守ってくれる事だろう
たった一羽の鳥が、人々の心を動かし、感動を与え、希望を届けた
これはそんな鳥が巻き起こした不思議な不思議なお話でした おしまい